トナリ未来

キンモクセイが涼しい風に乗って香る季節になりました
そんな時期に風邪を引いて季節の香りも楽しめません




高校生の頃、甘酸っぱい気持ちを感じながら読んでいた『ハチミツとクローバー』を
久しぶりに秋の夜長に読書灯の下で読むと


今まではさらっと読んでいた箇所に、胸を突かれたのでした


物語の中で主人公は就活に苦しみ、その友達も卒業後の進路を悩んでいました


「つぶしが効かない」と親に反対された美大の道に
自分なりに覚悟し、納得して来たつもりだけれど、


それでもやはり、就職先どころか
近所のしがないレンタルビデオ屋のバイトの面接にさえ落ちると


この先についての不安は大きくなるばかりで


そんな気持ちを抱えながら向かった部室で


卒業後、結局定職に就かないままタイムリミットを迎えて
実家の家業を手伝うために東京を離れる先輩の後ろ姿に


いままでお世話になった感謝の気持ちもうまく伝えられないまま、


100均で買った先輩への餞別のルービックキューブ
ビニル袋の中で哀しく揺れていたのでした


誰も口にしなかったけど
おそらくあの場所にいたわたしたちのほとんどが
先輩の後ろ姿に自分の未来を見た気がして、


少しの間だけでも気がつかないフリができるように
「銀杏、塩つけて食べるとおいしいね」なんて
つまらないことを言ってみたりするのです


部室で煤けていた『ソラニン』を読むと
まさにすぐそばに来ている次の自分たちを描いていて
近未来どころか、
すぐ隣に座っている未来の存在に気付いてしまったのでした





2年前、当時付き合っていた彼と『ぐるりのこと。』を見たことがありました
美大卒の夫婦の、葛藤、苦悩、混沌、再生の話で
それを美大に通う2人で見てしまって
観賞後、2人ともコメントできずに伸びたそばの悪口を言って誤摩化したのを
覚えていますが
当時は付き合い始めたばかりで、やってきた夏の季節に
すぐにそんな気分は忘れてしまったのでした





今朝のテレビで、スペインの失業率が46%もあることを知って
日本の8%なんて、なんだか笑えちゃうくらいなんだな、と思いました


「選ばなければ職なんていくらでもあるんだ。好きなことを職業にしてる人間ばかりじゃないんだ」
という父は定年までまだまだあるけれど、


実は「もう辞めたい…」と毎日のように母にこぼしているらしく


そんな素振りを子どもの前では少しも見せない父を
わたしは養っていくだけの仕事をできるだろうかと考えると
なんだか自分のポテンシャルはそんなにない気がしてしまいます


自分のことを才能のある人間だと思っているつもりはないけれど、
もう少し何か人並みにはできるつもりでいました
大学で人並みに勉強して、人並みに友達つくって、
人並みにいい企業に就職して、人並みに人生おくって、


もうなにが人並みなのかもよく分からないけど


でも
気持ちは落ち込んで、秋風が染みるなあなんて
ちょっとセンチメンタルになっても


電話で話でも聞いてもらおうかな、と思える友達と
帰れば旨味のないただ辛いだけのカレーを食べさせてくれる家があるだけ
わたしは恵まれていると思います





キンモクセイが散ってしまう前に風邪、治します