暮らしの音

この部屋に引っ越してきて、早3週間が過ぎた
閑静な住宅街にあるこの部屋では、夜になると自分の足音も何となく気になる


仕事を終えて帰ってくると
待っているのは湿っぽいこもった空気と電化製品の音


私が越してきてから一週間後
隣の部屋に人が入った


ここに越してきてから会ったのはこの人だけだ


他の誰にも会ったことのなく、生活感がまるで見えてこないこのアパートで
暮らしを感じることのできる隣の人は
どこか安心できる存在となっている


包丁がまな板を叩く音
フライパンがけむりを上げる音
箸が器にあたる音


聞くともなしに聞こえてくる
そんな暮らしの音が
隣に人が暮らしていることを伝えると同時に
私もここに暮らしていることを感じさせる


郵便受けの表札が、そこに住んでいる事実を示しても
そこで暮らしているという真実を教えてくれるのは、この音たちだ


この部屋に暮らす私に、不思議な安らぎをもたらすのは
このなにもない部屋だからこそ聞こえる
人の暮らしの音なのである