情けない話

年に数回風邪をひくのだけれども、病気の器が相当小さいのか、

風邪以上に大きな病気はほとんどしたことがない。

おととしに胃腸炎になったほかは、記憶が正しければインフルエンザもない。

そうしてまた優等生らしく、きっちり週末に罹って週末で回復するのが常だった。

 

ところが今回はその例に漏れて、一週間も自宅療養する羽目になってしまった。

とにかく布団の中にずうっといるので、寝ることにも飽きたしまったく眠くない。

腹痛のあまりごはんを食べることができないので、ポカリだけちびちびと飲んでいる。

病院へ行った時には医者から入院という話もあったのだが、

どうしてもしなきゃならないというわけではないということだったし、

それくらいで入院するのもなんだかやわと思われそうだと思って、

じゃあ大丈夫ですと言うなり帰ってきてしまった。

 

しかし帰ってきてみると、水分だけで生活するということに何の知識もなく、

何を飲んでいいのかもよくわからないし、

仕事の仲間たちにも迷惑をかけてしまったという自責の念にも駆られるし、

開き直って休みを満喫しようなんて気には到底なれない。

そんなことを考えているとどんどんと気鬱になり、めまいや吐き気までしてくる。

もういっそ入院してしまったほうが幾分かいいと思い改めて病院に行ったのだが、

入院するほどの数値ではなくなってきてますね、と言われてしまうと

いいや何が何でも入院させてくれなんて言うのもおかしいので、

結局は、ハイそうですかと言ってすごすご腹をさすりながら帰るほかなかった。

 

結果、いまも痛い腹を抱えながら自宅療養とやらをむさぼっているわけだが、

病院からの帰り道、こんな時に誰を頼っていいのかわからなくなって泣いてしまった。

友達だって家族だって、こんな平日の昼間は働いている。

それに何を解決してほしいのか明白なわけでもない。

ただ、誰かの声を聴きたいと思ったけれど、誰の声を聴きたいのか分からなかった。

何か困ったことがあったら言ってね、と言ってくれた人が

これまでもいたような気がしたけど、それはいったい誰だったんだっけ。

 

人に頼れない。

自らの欠点であることは分かっていて、克服しなくてはと思い続け、

いまだ何も改善されていない最大の問題だった。

いつも逆だったらと考える。

もし誰かが、申し訳ない迷惑かけたくないと言ってひとりで涙していたら、

申し訳なくていいし、迷惑もかけてくれていいから話してほしい、

解決できないかもしれないけど、ただとなりで話を聞きたいと思う。

そうありたいと思うなら、自分も誰かに身をゆだねられる人でなければいけない。

そうやって、前に誰かとなりで話した人いなかったっけ。

 

それで、通話ボタンを押してみた。

どう話し始めていいのか分からない、どうか留守電になってくれと願った。

もしもし?と声が聞こえた。

申し訳ないと思った。仕事中に迷惑かけたと思った。

でも、やっと少し自らの欠点に克服の文字が垣間見えた。

 

情けない話、ちょっと体が弱ったくらいでこんなことになっている。

情けない話、わたしはいつでも強がっている。