コンクリートと倉庫と工場と、朝の島

新宿を出たのは23:55
代々木、青山、広尾、麻布、三田…


ハイソサイエティな土地を歩いていると
夜の東京は少しも眠らないんだと気づく


もっと厳かな夜を通り抜ける予定だったのに
抱き合った外人がパーティドレスで通り過ぎ
飲んだくれた若者が救急車でよこを走り去り


何台も何台も
まぶしいタクシーの光ばかりが忙しそうに行き交いしていた


それも落ち着いたのは品川すぎてから


星も見えない灰色の空が朱くなったり黄色くなったり
それはとても不気味だった


地面から隆起したように複雑に絡み合う道路は
まるで波打っている海のようで


歩いても歩いても遠い光は遠いままで


道路を上に下に
波から波を渡るように歩いていると
いつのまにか空は晴れて星が見えていた


黒い水に浮かぶ川崎工業地帯は、じっとりと光っていて
小刻みに揺れる水面に反射してとてもきれいだった


城南島に渡ったころには空は乳白色になっていて
「暑いよ!」って叫びながら
太陽に追いつくように広い道路を懸命に走った


誰もいない海で朝日を拝むはずが
海岸には結構人がいたりして
残念な気も、嬉しい気もした


大きな雲から朝日がのぞいたときは
言葉にもならなくて、体が震えて
疲れなんて感じないくらい


を期待してたけど


意外とあっさり朝は来てしまった




周りの風景が朝日に飲み込まれて透明になっていく


わたしはそれに飲まれないように朝をつかまえようとシャッターを切る


友達がうつらうつらとして朝に飲まれていく様子にシャッターを切る





大きな倉庫と
大きな工場としかないこの人工の島は
血の気がなかった


広くて
静かで


人の気配はあるけど
生きている気配はない



このコンクリートの塊でできた島に
人は何を見に来てるのだろう


あたまの上を飛行機がいくつもいくつも飛んでいった


あっちへ こっちへ


飛行機の腹を
こんなに近くで見たのは初めてだ





疲れを充足感へと変えてくれた銭湯が気持ちよかった


そして、
一緒に歩いてくれる友達がいてよかったと思った