2015-01-01から1年間の記事一覧

二万二千西域記 ーその4

翌朝は青天井の下、昨日生き残ったリンゴを丸かじりした。最上階である三階は吹き抜けを挟んで四つの部屋が対面していて、部屋というよりは屋上に長屋がふたつ並んでいるような感じで、吹き抜けの手すりにはバックパッカーたちの衣服がずらりとぶら下がって…

二万二千西域記 ーその3

翌朝、なにはともあれと銀行へすっ飛んでいったが、銀行はまだ開いていなかった。ロビーには入れたので座っていると最初にやってきた銀行員のおばさんに怪訝な顔をされ、換金しにきたのだ、何時に開くのかと尋ねると九時だという。携帯画面をみるとちょうど…

二万二千西域記 ーその2

真上のベッドの客がかなり遅い時間に出入りしていたことと、かなり豪快ないびきをかいていたこともあって完全に寝不足のまま西安の二日目は始まった。駅までバスに乗ったことで、ようやくバスが一律一元であることが分かった。これでこの先は不安なくバスに…

二万二千西域記 ーその1

目を覚ますと、眼下はあたり一面まっ白い雲の海だった。白い海に潜るたび、大きな機体が上下左右に大きく揺れる。見たこともないほど大きな入道雲がそびえていて、潜っても潜っても、雲の海は下へ下へと続いていた。そして何層目かの白い海を潜り終えたとき…

休日の過ごし方

近年、自分のからだについて思うところがいくつかあり、その原因がほとんど歯並びにあることが判明したので、自分でお金も払えるようになったことだし、そういうお金の使い方も悪くないと思い、近所の矯正歯科に通い始めた。思いのほか大掛かりな治療になる…

四丁目の部屋

この部屋に住み始めてから、丸三年が経った。月並みではあるが、その間色んな変化があった。人生で初めてホームシックになったり、自分の中の常識では計れない人に出会ったり、転職もしたし、両隣の住人が変わりもした。たったの三年だけれど、それでも確か…

帰り来ぬ本

最近、ひさしぶりにあの本でも読もうかなと本棚を探して、人に貸していたことに気付く、ということがよくある。貸したのは、もう何年も前だったりするのだが、案外だれに貸したかちゃんと覚えている。それは、その本の持つイメージと貸した人のイメージに重…

霧の中の街 ーその4

フェリーのチケット売り場に並んでいると、ひとりの老婆が20HK$札を2枚持って何やら話しかけてきた。分からないとジェスチャーで伝えると、今度は英語で話しかけてくる。香港に帰りたいけど、お金がこれしかない。チケットを代わりに買ってくれないか?わ…

霧の中の街 ーその3

現代版小田実なる青年曰く、渡り歩いて一番素晴らしかったのはベトナムらしい。その次に良かったのが、フィリピンで、とにかく物価が安いのだとか。たしかに、彼の歩いてきた国々に比べると、香港は決して安上がりな国ではない。物価で言えば、日本とほぼ同…

霧の中の街 ーその2

朝7時起床。外は相変わらずの霧雨だった。この日は、8時から始まるという太極拳の体験に行くことだけ決めていた。シャワーを手早く浴びて、さっさと出かける。太極拳も1時間くらいで終わるだろうから、それから換金して朝食を食べて宿代を払いに戻ればい…

霧の中の街 ーその1

リュックサックにTシャツ3枚、ズボン1枚、下着と靴下を入れて、成田を出国したのが3日の夜。霧雨の降る海沿いの街に着いたのは、4日になったばかりの深夜だった。財布の中には、日本円で3万円。4日間の滞在には充分な額だ。 空港内のコンビニで「オクト…

雪の庭

今朝、あれだけ舞っていた雪はどこへ行ってしまったのだろう。縦横無尽に飛び交って、黒いアスファルトをあっという間に白く染めた雪は、昼過ぎには冷たい雨と共に消えてしまった。夜には雨も止み帰宅の途につきながら、あっという間の雪だった、と思う。明…